敬称略にて失礼します。
内容の誤りについては、よろしくご指摘ください。
あんまりいぢわるなコメントは勘弁願います。

2009年3月26日

男が泣く



<今日の1曲>
Scenario

by 吉田美奈子  詞/曲 吉田美奈子
('95年リリースのアルバム 「 Extreme Beauty 」 に収録)

 
 前作から5年の歳月を経て発表したアルバム 「 Extreme Beauty 」 。
 満を持してリリースしたこのアルバムは、収録されたすべてが力作といえるもので、低域に深みを増したボーカルは、吉田美奈子のボーカリストとしての新たな幕開けを思わせました。
 収録曲すべてが素晴らしく、このアルバムは'95年のマイベストフェイバリットでした。

 中でも特に印象的だったのが、track7の「Scinario」。吉田美奈子の感性で、男と女の哀愁をスローに歌い上げるジャジーなバラードです。
 サビの部分の「男が泣く」というワンフレーズにはやられました。普段強がっている男も、女に別れを突きつけられてはただ泣くしかない。たとえ涙を見せずとも背中は泣いています。そんな男の弱さをこうも見事に、叙情的に歌い上げてしまう彼女の力量に、ただただ聴き入るばかりです。





2009年3月19日

津軽の三味にハードロックで



<今日の1曲>
Tsugaru(KEIKO)

by 角松敏生   composer:角松敏生
('90年7月リリースのインストゥルメンタルアルバム 「 Legacy of You 」 に収録)


 '87年の 「 SEA IS A LADY 」 に続く、角松敏生のギターインストアルバムの第2弾が、今回の Tsugaru(KEIKO) を収録した 「 Legacy of You 」 です。このアルバムでは全ての曲名にそれぞれ違う女性の名前が付記されていて、角松のアソビゴコロを感じます。

 「 Tsugaru(KEIKO) 」 は、分厚いハードロックリズムに津軽三味線をフュージョンさせた、当時ではかつてない試みの1曲です。一見するといかにも奇を衒った感じで遠慮したくなりそうですが、ところがどうして百聞は一聴にしかず。

 約9分に及ぶ演奏は長すぎると評する向きも中にはありますが、前半・中盤・後半と展開が変わっていくため、聴いていて冗長な感じが全くしません。
 この曲の出だしからの約2分間は、シンセの空間的エフェクトをバックに伝統的な津軽三味線が無伴奏ソロで奏でられます。そこには、繊細さと同時に独特の気迫が流れていきます。やがてロックのリズムが徐々に追従し、津軽三味線とベーススラップの重厚な心地よいコラボレーションに続きます。さらにギターソロとが交互に入れ替わりながら旋律を奏で合い、中盤にはキーボードとサックスのソロが入って華やかに展開します。後半は分厚いリズムに支えられたギターサウンドと津軽三味線のサンプリングがうまく組み合ってオリエンタルテイストなハードロックが響きます。

 プレイヤー陣を見てみると、角松自身のギターに加え、三味線は高橋竹与(現 二代目高橋竹山)、ドラムスは村上"ポン太"秀一、ピアノ・キーボードに小林信吾、ベースに(故)青木智仁、パーカッションに斉藤ノブ、リズムギターに鈴木茂、サックスに本田雅人、打ち込みは(故)浅野ブッチャー祥之、マニピュレーションが久保幹一郎と、本当に超一流どころのミュージシャンばかりズラリ。流石にこれだけの人材を集めただけの曲になっており、聴くたびに元気をもらえる素晴らしいものに仕上がっています。

 この曲の主な意図は津軽三味線とロックサウンドのかつてないフュージョンでしょう。打ち込みの分厚いリズムに、軽快な津軽三味線が重なる様が圧巻で、初めて聴いたときには鳥肌モノでした。
 聴いてみて思うに、津軽三味線のソウルとハードロックのソウルは、音色は違えど、ハートを熱くさせるその根本は同じものなのですね。





2009年3月16日

焼そば風おむすび



<今日の1曲>
真夜中のソースごはん

by さねよしいさ子   詞/曲:さねよしいさ子
('90年4月リリースのアルバム 「風や空のことばかり」 に収録)


 今日のニュース記事で見つけたのですが、何やらファミリーマートが 3/24 ~ 4/20 の期間限定で
 「 チキンラーメン風おむすび 」
 「 出前一丁風おむすび 」
 「 日清焼そば風おむすび 」
の、3種類のインスタント麺おむすびをを売り出すらしいです。
 こういうジャンクフード好きな自分にとってはチョイとばかり興味津々。以前に、「サッポロ一番みそラーメン風」ってのやエースコックとコラボしたものを食べてますが、今回も楽しみです。「日清焼そば風」って、多分ソース味ごはんじゃないのかな...

 ...ってことで思い出したのが、さねよしいさ子の 「真夜中のソースごはん」 。
 よし、今日の1曲はこれでいこう!


 「真夜中のソースごはん」 は彼女のデビューアルバム 「風や空のことばかり」 に入っており、結構お気に入りの曲だったりします。ワケワカメなユルい歌詞をちょっと舌足らずな口調で歌ってますが、よく聴くと伸びのある声で歌は上手いです。伴奏はピアノのみでシンプル。曲の旋律も素直です。
 
 歌詞は、 「パパンパ」 が真夜中にごはんとソースをただ炒めただけのソースごはんをこっそり食べていて、それはあんまりだよね、というなんとも想像力を駆使させる内容。
 そこに出てくる 「 パパンパ/パンパパ 」 って、どうも実のお父さん (動物学者の實吉達郎氏) のことらしい。


 でもこういうソースごはんみたいなのって、お腹空いてると結構ウマいんだよね。実際のところ、自分は 「ソースごはん」 や 「マヨごはん」 や 「ねこまんま」 が大好きな安上がり野郎です。ウマけりゃいいんです。

風や空のことばかり




2009年3月15日

歌える芸人



<今日の1曲>
Drop

by 久保沙耶香   作詞:真間稜  作曲:濱本宏之  編曲:Steven Summers
(2000年12月リリースのマキシシングル 「 Love Will See Us Through 」 に収録)

 この歌い手である久保沙耶香こそ、知る人ぞ知る、今ブレイク中のお笑いデュオ “モエヤン” の久保いろはです。
(以下、愛称「くぼっち」で呼ばせてもらいます)
 現在、お笑い界でジワジワとブレイク中のモエヤンですが、その芸風は笑いと音楽のシュールなコラボレーションも多く、彼女らの持ち前の歌唱力が一役買っています。


 このくぼっち、元々シンガーを目指して上京してきたという経緯をもっており、 19歳の時にこのマキシシングルをリリースしています。当時はあまりパッとしなかったようですが、その後、三宅裕司率いる劇団SETの一員となり、そのSETで知り合った相方である池辺愛の強い誘いから、2005年にモエヤンを結成するに至ります。
(現在はSETをお休み中らしい)

 今回の選曲は、そんなくぼっちのソロシンガーとして唯一のリリースであるマキシシングル 「 Love Will See Us Through 」 のカップリング曲 「 Drop 」 です。B面扱いの曲ですが、こちらの方がソウルフルな面が出ていて良い感じ。歌い方には当時の若さが見え隠れしてしまいますが、それでも聴いていて十分に切なさが伝わってくるいい曲です。

 お笑い芸人として売り出し中ながらも、実はブラック系R&Bの歌唱力も併せ持つという逸材のくぼっちです。これから先、新たなCDリリースがあることを大いに期待しています。


現在、このCDは入手困難なようです。




2009年3月14日

「笙」の一曲



<今日の1曲> 一風変わって雅楽などいかが?
曹娘褌脱

by 宮田まゆみ    
('86年9月リリースのアルバム 「星の輪」 に収録された雅楽の伝統曲です)


 この 「曹娘褌脱(そうろうこだつ)」 は、奏者宮田まゆみによる、和楽器 「笙」 を中心とした雅楽の合奏曲です。他の雅楽の曲にはあまりみられない、わかりやすい旋律でリズム感があり、聴いていて非常に親しみやすい曲目です。そのまま、上手く歌詞を付けていったら歌が唄えてしまえそうに思います。

 しんと鎮まりかえった静けさの中で聴いていると、日本古来の和の様式美を思わせる幻想的な風景が思い浮かんできます。一切の邪念や思い込みを捨て、曲に浸りきってみると、いいリフレッシュになるかもしれません。

 とはいえ、曲調や演奏は雅楽そのものなので変な期待は無用です。
 タイトルの 「曹娘褌脱」 の意味するところは、実は調べてもよくわからいない、というか、全くわかりませんでしたが、まあそんな周辺知識がなくとも、聴いていて心地よい楽曲なので、それでよしとしましょう!

 演奏は10分間に及びますが、一つ一つの小節での演奏が微妙に違うので、その面白さにハマって聞いているととても短く感じられます。4分50秒あたりからの 「第二楽章?」 からは、それまでのゆっくり流れていたリズムと変わって少しテンポが早くなりますが、このあたりは何かしらの物語が背景にあるのでしょう。いろいろと想像を巡らせながら聴くのもいいものです。笙のソロによる落ち着いた始まりと、小鐘の余韻が消えていく静かな終わりが、日本古来の枯淡な 「美」 を思わせます。

 オーディオ的には、笙の持つ倍音の伸びがとても綺麗なので、環境雑音の少ないところで腰を落ち着けて聴きたいところです。


 なお、奏者の宮田まゆみさんについては、こんな方です。
bits Special Interview
国立音大 カリヨン広場
※シンガーソングライターの宮田まゆみさんとは同姓同名の別人ですのであしからず。


現時点では、このアルバムは絶版で入手困難なようです。




2009年3月12日

山深い森の奥にこそ...


<今日の1曲>
マニアックなシンセサウンドをね Deep Mountain Forest (3部作)

by the Gentle Wind   composer : Nahoko Kawai arranger : Mickie Yoshino (track 10)  Ken Watanabe (11)  Akio Suzuki (12) ('89年10月リリースのアルバム 「 Tears of Nature 」 に収録)


 the Gentle Wind は、ミッキー吉野と河合奈保子が、精神世界の浄化をコンセプトとした音楽を表現しようと1989年に結成したユニットです。(CDのジャケットを見るとなぜか the が小文字)

 ユニット1作目のアルバム 「 Tears of Nature 」 は、河合奈保子が水・風・光・海・山といった自然の要素を題材に旋律をイメージし、ミッキー吉野を中心にベーシスト渡辺建とサックスプレーヤー鈴木明男が参加したアレンジャー陣が編曲するという形で作成された INSTRUMENTAL 集です。(ボーカルはありません、念のため)

 アルバムの内容は、打ち込みとキーボード中心のシンセサウンドですが、鈴木のサックスや、YAS-KAZのパーカッション、その他のアコースティックも上手く取り入れており、ちょうどリリース時期のちょっと前に流行したフュージョン系のサウンドに近い感じです。

 アルバム中のオススメは、ラスト3曲の 「 Deep Mountain Forest 」。 このタイトルは3部作となっており、河合奈保子の作曲した旋律について、ミッキー吉野、渡辺建、鈴木明男の3人が別々にアレンジし、順にトラックを並べるという、あまり見られない面白い試みをしています。  実際に収められている3曲は、共に、タイトル通りの重厚な非常に聞き応えのあるサウンドがオスティナート形式で展開されます。「山奥の深い森」と題した同じテーマで、安らぎの森、鎮まりかえった森、激しく荒れる森というイメージがそれぞれ表現され、同じ旋律でもアレンジによってこうも違うものかと驚かせてくれます。実に興味深い。

 録音については、SN比は年代相応ですが、シンセ中心に広い音場感を作っており、なかなかいいレコーディングになっています。スペアナを見てみると、特に、track11なんかは60Hz以下の超低域の量が凄まじく、曲の最後の方に現れる "ズン" とくる超低域アタックなどは聴き所の一つです。随処に現れるYAS-KAZパーカッションが綺麗に聴こえると面白いです。全般的に低域の量が多いので、安物のスピーカーやヘッドフォンでは音割れするかもしれません。解像度が高くおどろおどろしい程の低域を本格的に再生できるシステムでこそ、このアルバムが表現したかった「人が踏み入れることのない森の深さ」が聴こえてくるでしょう。

現時点では、このアルバムは絶版で入手困難なようです。

2009年3月10日

1杯の珈琲のひと時に



<今日の1曲>
OPEN UP

by 五島良子   written by Gort & Aguilar  訳詞:Project N
('99年7月リリースのマキシシングル「 OPEN UP 」 、および
 '99年8月リリースのアルバム「 The Best of Goshima Yoshiko / OPEN UP 」 に収録)


 おなじみネスカフェのCMで歌われていた曲です。

 歌っているのは五島良子。1989年にインディーズデビュー、翌年メジャーデビューのシンガーソングライターです。多くのCM曲や他のシンガーへの楽曲提供なども行っています。

 彼女の初期のオリジナルアルバムをみると、ジャジーでコアなブラックサウンドを追及したものや、一方ではサイケデリック色の強いもの、はたまたソウルな方向に凝ったものなど、あちこち走り廻っていたように思えます。そんな彼女も、デビュー10年目の '99年頃からミディアムスローのR&Bを基調とするようになり、巧みなウィスパーボイスとファルセットをうまく使いこなすことで、彼女のもつ細身の声を生かした歌唱力が、より充実感を増してきました。

 彼女の歌の巧さは、その「乾いた声」で「しっとり」歌う、一見矛盾した両面を併せ持つところにあるでしょう。じっくりと聴けば、そのキーの広さ、ファルセットの入れ方、発音の巧みさ、さらにソングライターとしての楽曲の完成度と、いずれも高い次元にあることがわかります。
 
 今回の 「 OPEN UP 」 はそんな彼女が奏でる、午後の息抜きにぴったりの1曲です。
 リラックスしたいひとときにこんな曲が流れてくると、本当に一杯の旨い珈琲が欲しくなっちゃいます。





2009年3月9日

December once again



<今日の1曲>
December

by EXPOSÉ   written by Fro Sosa & Lewis A. Martineé
(1987年リリースのアルバム 「 EXPOSURE 」 に収録)


 EXPOSÉ(エクスポゼ)は、'80年代後半から'90年代前半にかけてヒットした、マイアミ発のディスコサウンドを基調とした女性ユニットです。
 今も現役で活動中であり、現在のメンバーは、 Ann Curless, Jeannete Jurado, Gioia Bruno, Kelly Moneymaker の女性4人ですが、ファーストアルバム「EXPOSURE」のリリース時は、Moneymaker を除く3人でした。

 1988年には、バラード調の「 Season Change 」(アルバム「EXPOSURE」収録)が全米チャート1位を記録しています。

 実はこのグループ、1984年の最初の結成時は、現メンバーとは全く異なる3人女性シンガーが集められて "X-Posed" と呼ばれるユニットが組まれました
 その後、いかにも大人の事情による度々のメンバー入れ替わりがあり、'86年に、現メンバーである Curless, Jurado, Bruno の3人のユニットでファーストアルバム「EXPOSURE」がプロデュースされます。
 1990年に Bruno が喉部ポリープの療養のためユニットを一時離脱し、後の'92年に Kelly Moneymaker が参加します。2003年に療養を終えた Bruno が復帰し、現在は4人のユニットで活動しています。

↓EXPOSÉ のウェブサイト(音声あり) ----(なぜか Kelly Moneymaker の姿が見えません)
http://www.exposeonline.net/

 その彼女たちも、今やもう熟女世代! しかし、そのウェブサイトを見る限り、20年余り前とほぼ変わらないレベルで今も同じように歌えているのがスゴイなあ。


 さて、そんな EXPOSÉ ですが、個人的なイチオシとして、ファーストアルバム「Exposure」から、ラストを飾る「 December 」を推したいと思います。


 アルバム「Exposure」は、バックの演奏は全曲とも打込みとシンセのみで、ダンサブルなナンバーが並びますが、4曲目に全米1位を取った 「 Season Change 」、ラストに 「 December 」 と、うまくバラードを織り交ぜて構成されています。
 なお、3人の中で曲によってリードボーカルを替えており、それぞれが変なクセもなく、むしろ3人とも巧さを感じます。アレンジはすべて典型的なディスコサウンドで、この点ではあまりバラエティさがありませんが、逆にハズレ曲もないので安心して聴けるアルバムです。

 December はドラマティックな曲調で、この曲の締めくくりの静かな終わり方は、アルバムの全曲を通しで聴くと、なるほどうまくここに持ってきたなと感心できます。そんなイチオシの December なのですが、後にリリースされたベスト盤には収録されないあたり、アルバムのラスト曲としてのみ価値があるだけだったりして?

アルバム「Exposure」サンプル試聴

 余談ですが、このアルバム「EXPOSURE」はいかにもディスコホール向けにチューニングされているようで、音質面では、極端に人工的なエコーや、バックコーラスの低解像度が耳に付くため、Fレンジの広いマトモなオーディオシステムでの再生には不向きかもしれません。
 iPodなどのポータブル機で聴く方が幸せになれると思います。






2009年3月8日

世界のDIVA



<今日の1曲>
今回はクラシカルクロスオーバーから
TIME TO SAY GOODBYE

by Sarah Brightman & Andrea Bocelli
詞:Francesco Sartori  曲:Lucio Quarantotto  編:Frank Peterson
(Sarah Brightman 「time to say goodbye」 (国内版'97年12月リリース) に収録)

 サラ・ブライトマンは、ミュージカル「オペラ座の怪人」で一躍名を馳せ、また、バルセロナオリンピック閉会式や2007年世界陸上開会式、北京オリンピック開会式にゲスト出演したこともあり、世界的に有名なクラシカル・クロスオーバーの草分けとなったソプラノ歌手です。
 また、国内でもいくつかのCMのBGMや、かつてニュースステーションのオープニング曲で「サラバンド」が流れていたこともあり、多くの方が耳なじみであると思います。

 この 「TIME TO SAY GOODBYE」 は、元々は、イタリアの盲目のテノール歌手アンドレア・ボチェッリが「コン・テ・パルティロ (Con Te Partiro) 」と題して1995年にイタリア語歌詞でリリースしたのが初出です。
 その翌年に、サラ・ブライトマンからの願い出により、一部の歌詞を英語に換えて 「TIME TO SAY GOODBYE」 として、サラとアンドレアのデュエットとして発表。これが、ヨーロッパを中心に世界的なヒットとなりました。
 このデュエット曲は、一時期、レガシィ・ランカスターなどのCMソングとしてTV放送されていたので、知る人も多いでしょう。

 また、サラがソロで歌うバージョンの TIME TO SAY GOODBYE もあり、これも彼女の代表曲のひとつになっています。
 このソロバージョンでの聴きどころは、彼女のビブラートが、まるで弦楽器に見まごうばかりに聴こえるところでしょう。さすが世界のディーヴァならではです。

 しかしながら、クライマックスでの迫力という面で聴きごたえがあるのは、やはりデュエットの方だと思います。
 こちらは、序盤はソロバージョンと同様にサラのささやくような歌い出しで始まり、やがて美しい張りのあるソプラノを聴かせてくれます。中盤から、アンドレア・ボチェッリの少し鼻に通るテノールに替わり、終盤にはデュエットでの力強いハーモニーで幕を迎えます。アンドレアのテノールは個性的ですが、サラのソプラノにうまくマッチしていて、特に曲の最後の、2人揃ってのフェルマータが圧巻です。

(参考) Youtubeから、サラとアンドレアのデュエットのライブ映像を拾ってみました


 ちなみに、 TIME TO SAY GOODBYE は、他にもヘイリー・ウェスティンラや本田美奈子など多くの歌い手がカバーしています。それぞれ持ち味があり、それぞれ美しい歌声を聴かせてくれますので、バリエーションを楽しむのも面白いでしょう。



2009年3月6日

JE T'AIME



<今日の1曲>
ジュテーム

by 坪倉唯子  詞:大津あきら  曲:織田哲郎  編曲:池田大介
('93年1月にシングルリリース、 '93年4月リリースのアルバム 「ジュテーム」 にタイトルソングとして収録)


 この 「ジュテーム」 は、'93年に放映されたの日テレ木曜のシリアスドラマ 「ジェラシー」 (黒木瞳主演) のエンディングテーマとしてヒット。

 歌い手である坪倉唯子は、B.B.クイーンズの女性ボーカルとして知られています。そのB.B.クイーンズでは、敢えてキーを高めにしてコミカルさを演出していましたが、彼女の本領は、やはりスローなオトナのラブソングでしょう。そんな彼女は、絶賛したいほど、本当に歌が上手い。
 現在まで、数多くの著名アーティストのバックコーラスにも参加しており、隠れた名シンガーの一人です。
 

 彼女の歌の魅力は、なんといっても、微妙にハスキーで艶のある太目の中低域の声にあります。
 特に、この 「ジュテーム」 での歌い出しの1小節目、2小節目の母音「o」の歌唱は、ゾクゾクと身震いがするほどの妖艶さを持っています。この妖艶さを表現できるボーカリストは彼女をおいては、他に見当たらないといっても過言ではありません。

 「ジュテーム(アルバム)」 以外のアルバムにはポップな曲調のものもありますが、それらの多くは彼女の持ち前の声質には合わずボーカルが細身に聴こえてしまい、本来の魅力が引き出せていないように感じます。
 やはり彼女の場合は、バックを控えめにボーカルを浮き立たせ、ミディアムスローの切ない曲調でこそ、その妖艶さが発揮されるのだと思います。このアルバム 「ジュテーム」 は、敢えてアップテンポの曲を排しており、全体として「切なさ」がうまく表現された統一感のある良い作品に仕上がっています。
 そんな妖艶さをもつ彼女こそ、もっともっと売れてもよかった歌い手の一人でしょう。

 ちなみに、1枚のアルバムにカタログ的にあれもこれもと詰め込むよりも、こういったアルバム全体にテーマ性を持たせる方が、気分に合わせてアルバムを聴くリスナーにとっては良い作り方に感じます。





2009年3月4日

才女への惜別



<今日の1曲>
シャ・リオン Shalion

by 河井英里  曲:大島ミチル  編曲:武沢豊
('96/5月 「ワーズワースの冒険」主題歌としてシングルリリース)


 故 河井英里さんは、東京芸術大作曲科卒の才女であり、かねてよりソングライターとしての活動を続けてきましたが、無念にも病魔との闘いに勝てず、2008年8月に逝去されました。享年43歳という短い生涯でした。

 生前は、コンピレーションアルバムへの参加や、ユニット「Erie」でのオリジナルアルバム等、いくつかのリリース作品を発表していますが、彼女の活躍はどちらかといえば、CM曲や、映画・ドラマの主題歌や挿入歌の制作が中心であったようです。彼女の名を知らなくとも、彼女が作った曲は耳が覚えている、という方は多いと思います。

 先の2008年12月には、彼女の代表的な作品を集めたアルバム「ひまわり」、オリジナルのアルバム「風の道へ」の2作が、追悼祈念としてリリースされました。


 彼女の作品と初めての遭遇は、フジテレビ系列「ワーズワースの冒険」で流れていた主題歌「シャ・リオン」でした。聞いたことのない言葉で、異国の不思議な情景を思わせるその歌声は、今まで耳にしたことがない、初めての不思議な感覚でした。
 曲が終わってもしばらく耳に残ってしまい、その後幾日と頭の中をリフレインしていたものです。
 芸大卒ながらも声楽ちっくな歌唱法はほとんどなく、しかし、音程がブレずによく響き、かつ音域の広いその発声法は、さすがであり魅力十分です。

(その歌詞は、始めフランス語だと勘違いし、しばらく後に、どの国の言語でもないオリジナルの造語だったと知って、ちょっとビックリ!でした。)


 改めてこの「シャ・リオン」を聴いてみると、初めて聴いた当時となんら変わることなく、耳の奥にその不思議な感覚が浮かんできて、河井英里という才女への惜別の念が再びこみ上げてくるのでした。






2009年3月3日

SSS,まずはこれ...

(自分の好きな曲を1曲ずつ、地味に紹介していきます。)

<今日の1曲>
Seven Swan Songs

by 上野洋子  詞:鈴木慶一  曲:上野洋子
('03年7月リリースのアルバム 「 SSS ~ Simply Sing Song 」 に収録)


 時折、無性に、一人きりになって上野洋子の歌声に触れたくなります。
 彼女の声は、声量も決して多くはなく、クラシックでの声楽的な声質とは正反対の、どちらかといえば細身の声質。にもかかわらず、とてつもない魅力を感じます。
 1985年から1993年ののれん分けまで、吉良知彦とのユニット「zabadak」として活動していた時期も、彼女はケルティックな色彩の曲を数多く手がけ、その澄みきった繊細な歌声で数々の名曲を生み出しました。

 2003年に発表されたこの Seven Swan Songs は、ムーンライダーズの鈴木慶一が手がけた奥深い内容の歌詞を、上野洋子の落ち着いたボーカルが訥々と刻みます。
 「 革命が起きるなら 」 という重い言葉で始まり、やがて 「 火星の砂嵐が 」 というフレーズが現れ、戦争という悲劇の情景が浮かんできます。
 さらに 「 オランダ菖蒲の花 」、そして最後に唄われる 「 7番目の明星 」 というフレーズ。
 曲を通してイメージされるのは、まさに非情な戦争に見舞われたそこに生きる女性の、愛する者の生を願う愛おしさです。

 楽曲自体も、バックのアレンジに派手さは皆無で、上野洋子の繊細なボーカルがうまく引き立っています。
 スローテンポなメロディラインもごく素直です。優しく、強く、そして重みのある数珠の一曲です。


※ 「火星の砂嵐」というフレーズについて、火星はローマ神話の軍神マルスを意味し、まさに激しい争いの情景を思わせます。

※ 「オランダ菖蒲」とはグラジオラスの和名のひとつ。グラジオラスという名は、ラテン語の剣(グラディウス)に由来し「戦いの準備」を意味するそうです。花言葉は、勝利・忍び逢い・用心・情熱的な恋。

※ 「7番目の明星」は、北斗七星の7番目を意味するのでしょうか。唐の経典『仏説北斗七星延命経』で“破軍”を意味し、戦に勝つための守護星といわれた星が、その7番目の星です。